患者さんもご家族も安心できる退院を目指します。
1年以上の入院患者さん又は入院が1年以上に及ぶ可能性がある患者さんに対し、退院後に地域で安定的に日常生活を送るための訓練や支援を集中的に実施し、地域生活への移行を図る病棟のことです。
当院の「地域移行機能強化病棟」では、現在、病床数が58名で、3年以上の長期入院の方が半数を占めています。
当院の地域移行のスタートは、平成20年度(2008年)の地域移行推進室設置です。同推進室をはじめとし、医局や看護部と協働しながら5年以上の長期在院者を次々と退院に結びつけて行きました。そして平成28年2月、看護部・事務部・これからの暮らし支援部による「地域移行機能強化病棟準備チーム」を立ち上げ、病院全体で退院促進に取り組む機運が高まり、さまざまな確認・協議を重ね、平成28年4月1日病棟運用開始となりました。
現在の病棟スタッフは、専従医師1名、看護師17名、准看護師5名、看護補助者4名のほか、専従精神保健福祉士3名、専従作業療法士1名で構成されています。強化病棟の個別的な支援として、毎月、主治医や看護師、精神保健福祉士などの病棟スタッフをはじめ、関係機関の方々、ご家族の方々に参加していただき、「退院支援委員会」を開催しています。
それぞれの患者さんに合わせた退院支援を行う中でさまざまな課題があり、なかなか退院にむすびつけられない状況もありました。しかし、病棟全体への支援として定期的に関係機関の方々による意欲喚起プログラムの講話や集団外出での社会見学などを行うことで、患者さんやご家族の退院への意欲が高まり、平成28年4月から令和4年3月末までの間に95名の患者さんを地域へ送り出すことができました。
■ 地域移行機能強化病棟 58床 | |
---|---|
専従医師 | 1名 |
看護師 | 17名 |
准看護師 | 5名 |
看護補助者 | 4名 |
専従精神保健福祉士 | 3名 |
専従作業療法士 | 1名 |
地域移行機能強化病棟では、入院されている方々に安心して地域生活に移行していただけるよう、以下の取り組みを中心に支援を行っています。
開設時
現 在
① 退院を拒否する方が少なくなった。
『退院』の言葉が
出ただけで、
「絶対退院しない!
ここにいる」と拒否
「あの人も退院できた。
みんな退院していくんだ」
「いつか自分も退院しなきゃ」
と、
退院に向けた
生活相談が増加
② 現実的な不安を示すようになった。
退院後のイメージが
持ちづらいため
「(入院で)困ってない。
不安がない。」
外出や外部支援者との
交流により、
社会生活との
接点が増加。
「家賃とか生活にお金
が必要。
年金で生活費
は足りるのか?」
生活場所や費用など、
具体的・現実的な
不安を示す方が増加
退院を拒否する方が少なくなりました。にこにこサロンで同じ病棟に入院していた顔見知りの方が、地域での生活の様子を語る姿を見たり、外出などで地域や周囲の変化を知ることで、「いつかは退院しなくては」と気持ちが動きやすくなったように思います。
また、現実的な不安を示されるようになりました。今までは「不安がない」など、支援者の課題認識とご本人の認識が大きく離れている方も多くいらっしゃいましたが、現在では、周囲からの情報や外出などを通して、現実社会との接点から具体的で現実的な不安を示す方が増え、退院後の生活をイメージした相談が増加しました。
開設時
現 在
①「退院」への意識変化
長年の対応に疲弊し
「退院は困る。苦労が多い。
支えるのも大変」
「入院を続けさせたい」と、
退院への協力が得られづらい場合も
医師などからの多面的な
生活状況説明や
外出など
での当事者変化から、
「いつかは退院する
んですね 」
「地域ではもっといき
いき生活ができる
かも 」
と考えに変化が
② 関わり姿勢の変化
高齢化などによる
親族窓口の変更など、
関わりが希薄
になった場合も
地域で活用できるサービスなどを紹介。
協力して支える仕組みをご理解いただき、
サービス契約や連絡
窓口への関与姿勢が
より前向きに
親族の方にも変化が見られています。
長年の対応に疲弊し、「なんとか入院を続けさせたい」という意向から、退院支援の協力が得られにくい方もいらっしゃいました。しかし、取り組みを行い、ご本人に変化が見られたことで、「いつかは退院するんですね」とお考えになられるようになり、退院への意識が変わってきました。
また、入院が長期化し、ご本人との関わりが希薄なご親族も多くいらっしゃいます。しかし、地域で生活する上で、契約や連絡先の設定などでご親族の関わりが必要であるというご理解を促すことで、内容を知ろうという姿勢が見られ、関心が高まったように感じます。
開設時
現 在
① 変化の少ない(困難な)状況への
取り組み姿勢が変わってきた
「退院できるの?」
当事者の病院内での生活
状況。
一方、病院外生活を評価
する機会が少なかった。
潜在的な地域生活力
把握が
難しい場合も
生活訓練などで同伴
外出が可能に。
地域生活力の確認・
向上に向けた
取り組み
が増加。
当事者の変化などを通じ、
職員の評価視点の
拡大
や新たな取り組み意欲へ
② 可能性を信じる姿勢の強化
変化の少ない
日常生活のため、
地域社会生活の
可能性・課題を
想像・
予測するが難しい
場合も
「この患者さんもできる
かも!」
「これ好きなんだ!」
「やってみよう!」
取り組みによる当事者の行動変化から、
潜在的な可能性に
目を向ける姿勢が
強くなった
携わる職員にも大きな変化が見られました。
当初は、ご家族だけでなく職員も「この方が退院できるの?」「生活できるの?」と誰もが不安を感じている状況でした。
入院が長期化していると、ご本人の状態をよく把握しているのが職員である場合があります。長期間、職員はご本人に寄り添い支援していたため、院内での生活の様子は把握できていました。一方で、病院外での生活力を把握する機会は限られており、地域で生活するイメージをもつのが難しい場合も数多くありました。
職員同伴の外出が退院支援業務と認められたことで、外出機会が増加。買い物や外食などを通じ、好みや行動など知らなかった一面を発見したり、洗濯やバスの練習などを行うことで、生活力が向上する姿を目の当たりにし、「また次も外出しよう」「次はどこに行く?」と病院の外に出ることに前向きとなる方々を見ることが出来ました。取り組みを続けるうちに、「この方もできるかも?」と、職員の中で更に可能性を信じる気持ちが強くなってきたように思います。
ご本人を含むチームとしての取り組みで喜びや困難を共有することで、次の取り組みへのモチベーションとなっています。
自分らしくいきいき暮らす方をお一人でも多く
「すべてのひとがいきいきと自分らしくいきていける地域社会づくり」という当院の理念のもと、地域社会でいきいきと自分らしく暮らす方が増えていくことを目指し、平成28年度から地域移行機能強化病棟を開設しました。
病棟開設にあたっては、長期入院者の退院支援で培ったノウハウを活かしながら、更に地域との接点を増やす働きかけも加えた、より積極的な地域移行を行ってきました。日々の働きかけの中には、当事者の意欲変化が大きかったもの、生活力の向上に有効なものも多くあり、一方で、退院拒否を示されることも未だにあるなど、現在もより良い支援を求めて実践を積み重ねています。
当事者の方が「退院は大変だったけど、自分の好きなことが好きな時間にできる自由があった。よかった」という『選べる自由、動ける自由』を実感し、いきいき暮らす方々の想いが、私たちの退院支援へのエネルギーになっています。
これからも、自分らしくいきいき暮らす方がお一人でも多く増えていくよう、地域での安定した暮らしの実現に向け、働きかけを進めていきます。